食品残留農薬のポジティブリスト制度
食品の残留農薬のポジティブリスト制度とは何ですか?
残留農薬等のポジティブリスト制度とは、日本の食品衛生法に基づき、基準が定められていない農薬等が「一律基準」0.01ppmを超えて残留する食品の販売等を原則として禁止する制度です。2006年(平成18年)5月29日に施行されました。 厚生労働省はこれを「一定量以上の農薬等が残留する食品の販売等を禁止する制度」と説明しています[1][2]。
Approach: 厚生労働省「ポジティブリスト制度について(Q&A)」と、食品衛生法の日本法令外国語訳(平成30年法律第46号改正版)を確認しました。Q&Aは制度導入時(2006年前後)の資料のため、条文番号は当時のもの(第11条)です。
導入の背景
- それまでも食品衛生法第11条で残留基準を定めていましたが、基準のない農薬等を含む食品は規制が困難でした[3]。
- 平成7年の法改正の際に国会で導入検討の付帯決議がありました。その後、輸入食品の増大や消費者の不安を受け、平成15年5月の法改正で導入が決まりました[4]。
- 制度を定めた厚生労働省告示は平成17年11月29日付です[5]。
制度の3つの柱
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 残留基準(暫定基準を含む) | 農薬等ごと・食品ごとに定めた個別の基準値です。施行時に基準がなかった農薬等には、コーデックス基準や米国・EU・カナダ・豪州・NZの基準を参考に「暫定基準」が設けられました。暫定基準も法的効力は通常の残留基準と同じです[6][7] |
| 一律基準(0.01ppm) | 個別基準がない場合に適用される「人の健康を損なうおそれのない量」です。これを超えて残留する食品の販売等は禁止されます[8] |
| 対象外物質 | 通常の使用で残留しても「人の健康を損なうおそれのないことが明らかである」として厚生労働大臣が定めた物質で、規制の対象外です[9] |
一律基準が適用される場面[10]
- どの農作物等にも残留基準がない農薬等が残留している場合
- 一部の作物には基準がある農薬等が、基準のない作物に残留している場合
なぜ「ゼロ規制」ではないのか: 健康に影響のない微量の残留まで違反とすると、食品の流通が不必要に妨げられるためです[11]。0.01ppmは、国際評価機関のデータや日本人の食品摂取量をもとに、薬事・食品衛生審議会で設定されました[12]。
特別な基準:
対象範囲
- 対象物質: 農薬、飼料添加物、動物用医薬品です。これらの代謝物など、化学的に変化して生成した物質も含みます[15]。
- 対象食品: 生鮮食品、加工食品を含むすべての食品です[16]。天然か養殖かは問いません[17]。
- 対象外のもの:
実務上のポイント
- 使用規制ではありません。 この制度は食品中の残留基準の制度です。農薬の使い方は農薬取締法で規制されています[20]。
- 輸入: 基準のない農薬等を含む食品でも、一律基準0.01ppmを超えなければ輸入できます[21]。
- 違反時: 一律基準を超えた農産物は食品衛生法第11条第3項違反として処分されます(Q&A当時の条文番号)[22]。
- 分析義務: 生産者や食品事業者に分析を義務付ける制度ではありません。信頼できる取引先の選定、使用農薬の確認、必要に応じた分析など、事業者ごとの自主管理が求められています[23]。
現行の根拠条文
平成30年法律第46号による改正後の食品衛生法の法令翻訳では、この規定は第13条第3項にあります。条文の内容は次のとおりです[24][25]。
- 農薬等の成分である物質が「人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が…定める量を超えて残留する食品」は、販売の用に供するために製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、保存し、又は販売して「はならない」。
- ただし、第1項に基づく残留量の規格(個別の残留基準)が定められている場合は、この限りでない。
ご希望であれば、特定の農薬と食品の組み合わせについて、日本の個別基準や検査結果を調べます。
食品ごとの残留基準値はどう調べますか?
食品ごとの日本の残留基準値は、公益財団法人日本食品化学研究振興財団が運営する「残留農薬基準値検索システム」で調べるのが実務上の近道です。厚生労働省と消費者庁は、どちらも食品中の残留農薬等のページでこのデータベースを紹介しています。 ただし、法的な根拠は「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)です。データベース自体も、利用時には官報等で再確認が必要と注記しています。
Approach: 厚生労働省「ポジティブリスト制度について(Q&A)」を確認しました。日本の農薬・食品ごとの基準値の一覧は手元のデータに入っていないため、消費者庁と厚生労働省の公式ページ、そしてそこからリンクされたデータベースを開いて確認しました。
1. 所管
- 消費者庁のページには、消費者庁が「全ての農薬、飼料添加物、動物用医薬品について、残留基準を設定」していると書かれています。基準は、食品安全委員会が安全と評価した量の範囲で、食品ごとに設定されています(消費者庁 食品中の残留農薬等)。
- 厚生労働省の旧ページにも、同じデータベースへのリンクが残っています(厚生労働省 食品中の残留農薬等)。
2. 調べ方の手順
| 手順 | 使う資料 | 内容 |
|---|---|---|
| ① 基準値を検索 | 残留農薬基準値検索システム(英語版あり) | 2通りで探せます。「農薬等から探す」は英語名か五十音順で選びます。「食品分類から探す」は農産食品・畜水産食品・加工食品などから食品名を選びます。「食品において不検出とされる農薬等」は別に掲載されています |
| ② 食品の分類を確認 | 農産物等の食品分類表(消費者庁掲載版) | 対象の食品がどの分類に入るかで、適用される基準が決まります |
| ③ 原文で確認 | 告示第370号「食品、添加物等の規格基準」(厚生労働省掲載ページ) | データベースは官報と消費者庁・厚生労働省の資料をもとに「独自に編集したもの」です。最終確認は告示や官報で行います |
| ④ 改正を確認 | 消費者庁の施行通知ページ、食品衛生基準審議会 農薬・動物用医薬品部会の資料 | 基準は随時改正されます。例として、令和8年1月20日の部会報告書の概要では、キノクラミンとスピロジクロフェンが取り上げられています(部会報告概要) |
| ⑤ 試験法 | 消費者庁 試験法ページ | 告示で定められた分析法です |
3. 分類で迷いやすい食品(Q&Aより)
- 独立した分類がない食品: コンブ・ワカメなどの海藻[26]や、カエル・カタツムリ・昆虫[27]は、どのカテゴリーにも入りません。「その他の一般食品」として、原則すべての農薬等に一律基準が適用されます。
- 「その他のスパイス」「その他のハーブ」: しょうが、ニンニク、にら、クレソンなどは独立した分類なので、これらの基準は適用されません[28][29][30]。みかんの皮(陳皮)は「その他のスパイス」に入ります[31]。
- 乾燥スパイス: 「その他の乾燥スパイス」は加工食品の基準です。「その他のスパイス」は生鮮品の基準で、乾燥品は水分含量で換算して判断します[32]。
4. 加工食品の考え方
- 加工食品に基準がある場合: その基準に適合する必要があります[33]。
- 基準がない場合: 原則は一律基準の対象です。ただし、原材料が規格に適合していれば、加工食品も適合として扱われます[33]。
- 乾燥品: たとえば乾燥ほうれんそうは、水分含量から濃縮度を出し、生鮮品に換算して判断します。冷凍・ブランチング野菜は、原材料の野菜の基準で判断します[34]。
- 加工係数: 原則として、各事業者が自社の加工工程に合わせて確認します[35]。業界団体の係数も、科学的根拠があれば目安として使えます[36]。
- ミネラルウォーター: WHOの飲料水基準が採用されています[37]。
5. 関連する情報源
- 海外の基準: 諸外国の残留基準の情報は、国立医薬品食品衛生研究所のホームページに掲載されているとQ&Aは案内しています[38]。
- 輸入食品の原材料: 生産国での使用管理と基準の設定状況、日本への輸入時の違反状況を集めておくことが考えられる、とされています[39]。
- 基準の新設・改正を海外から要請する場合: 「国外で使用される農薬等に係る残留基準の設定及び改正に関する指針」(平成16年2月5日付け食安発第0205001号)に沿って手続きします[40]。
農薬名と食品名を教えていただければ、厚生労働省の残留農薬等検査結果や輸入食品の違反事例を当たります。コーデックス、EU、米国などの基準値との比較もできます。
Sources:
国の残留農薬検査結果はどう読みますか?
国の「食品中の残留農薬等検査結果」は、自治体(国内流通品)と検疫所(輸入品)が1年度分の検査結果を報告し、厚生労働省がそれを集計したものです。要点の確認は「表1 総括表」、個別の農薬と食品の組み合わせは「全体版」の詳細表で行います。数字は「検出」と「基準値超過」を分けて読むのが基本です。 令和6年度(令和8年3月31日掲載)の結果では、検査は約300万件、検出は10,073件(0.34%)、基準値超過は224件(0.008%)でした(令和6年度 概要PDF、公表ページ)。
Approach: 厚生労働省の年度別検査結果(全体版の詳細表)と「ポジティブリスト制度について(Q&A)」の監視体制の項目を確認しました。集計方法の注記は厚生労働省の公表ページと令和6年度の概要PDFで確認しました。
1. 資料の構成
各年度の公表ページには2種類の資料があります。
- 概要PDF: 集計方法、表1 総括表、表2〜10「検出割合の高い農薬等」が載っています。表2〜10は、検査が100件以上あった農薬等のうち検出割合の上位20種類を、農産物・畜水産物・加工食品ごとに全体・国産品・輸入品に分けて示したものです(概要PDF)。
- 全体版(令和6年度は10.3MB、分割版あり): 食品ごと・農薬等ごとの詳細表です(公表ページ)。
2. 詳細表の列の読み方
各行は「農薬等名|国産品|輸入品|総数」の順に並び、それぞれに次の列があります。 検査数|検出数|検出範囲(ppm)|基準値超過数|%
読み方の例として、令和6年度の「りんご」のアセタミプリドの行を示します[41]。
- 国産品:検査55、検出21、検出範囲0.0025-0.14ppm、超過0(0.00%)
- 輸入品:検査21、検出0
- 総数:検査76、検出21、超過0
つまり「検出はあったが、すべて基準値以内」と読みます。
「%」は基準値超過数を検査数で割った割合です。 令和5年度の「その他の加工食品」のクロチアニジンの行で確かめられます。輸入品は検査500件、超過2件で0.40%、総数は検査536件、超過2件で0.37%です[42]。検査数が0の欄には%が印字されていません(例:精米の国産品の2,4-D[43])。
食品名の見出しは表の最初のページにしかありません。 続きのページには食品名が出ないため、どの食品の表かは前のページで確かめます。例として、令和5年度の「その他の加工食品」は見出しのあるページ[44]から、見出しのない続きのページ[42]につながっています。
3. 読むときの注意点(概要PDFの集計方法より)
- 検出数には0.01ppm未満も入っています。 検査機関ごとに試験法や検出限界が統一されていないためです。「検出あり」は違反を意味しません。
- 基準値超過は、その年度時点の基準値で判定されています。 自治体と検疫所が「基準値超過」として報告した件数をそのまま集計したものです(表1の注)。年度をまたいで比べるときは、基準値の改正に注意してください。
- 検疫所の数字には、命令検査と自主検査も含まれます。 どちらも登録検査機関が通関前に行う検査です。
- 件数は農薬等ごとに数えた検査数です。 概要PDFは「農薬等の検査数」として集計しており、検体数としては示していません。
- 国産品と輸入品では、検出されやすい農薬等が違います。 概要PDFは、国内と海外で広く使われている農薬等が違うことなどによると考察しています。令和6年度の輸入農産物では、イマザリル(19.61%)、フルジオキソニル、チアベンダゾールが上位でした。国産農産物ではジノテフラン(12.74%)が1位でした。
- 表2〜10にはヒ素・臭素・鉛も載っています。 令和6年度の農産物(全体)では、ヒ素が検出割合16.98%で1位でした。
4. 規制上の意味(ポジティブリストQ&Aより)
- 基準値を超えた場合: 販売禁止等の措置の対象です。ADIから見て小さい値かどうかは基準値を設定する段階で検討されることで、取締りの判断材料にはなりません[45]。
- ドリフト(飛散)が原因でも: 基準を超えれば食品衛生法違反とみなされます[46]。
- 検査項目は機関ごとに違います: 都道府県ごとに、生産品の種類や使われる農薬等に応じて決まります[47][48]。ある農薬等の検査数が少なかったり0だったりしても、その農薬等が「使われていない」ことを示すものではありません。
- 輸入時の検査: 一律基準の違反であっても、違反が重なれば従来どおり命令検査に移行します[49]。
5. 実務での使い方
- 全体の傾向: 表1で、食品区分ごと・国産品と輸入品ごとの超過率を見ます。令和6年度の農産物では、国産品が0.001%、輸入品が0.022%でした。
- 自社品目のリスク評価: 詳細表で、同じ食品・同じ農薬等の行を見ます。検出の頻度、検出範囲の最大値と基準値の差、超過件数を確認します。
- 超過の中身を知りたい場合: この集計表には個々の違反事例(輸出国や事業者)は載っていません。輸入品の違反事例は、厚生労働省「輸入食品等の食品衛生法違反事例」で調べます。
農薬名と食品名を教えていただければ、平成17年度から令和6年度までの詳細表から該当する行を年度ごとに抜き出し、推移を表にします。
Sources: