毒物及び劇物指定令の概要
毒物及び劇物指定令って何ですか?
毒物及び劇物指定令は、毒物及び劇物取締法の別表に定める毒物・劇物・特定毒物に加えて、規制対象とする物質や製剤を具体的に指定する内閣の政令です(所管は厚生労働省)。取締法の別表第一(毒物)、別表第二(劇物)、別表第三(特定毒物)は、いずれも最後の号で「政令で定めるもの」を対象に含めています。この指定令が、その「政令で定めるもの」を定めています。
Approach: e-Govに掲載されている毒物及び劇物指定令(法令ID 340CO0000000002)の現行条文と、毒物及び劇物取締法の別表第一から第三(施行日2025-06-01版)を確認しました。
法律との関係(委任規定)
| 法の別表 | 対象 | 政令に委ねている文言 |
|---|---|---|
| 別表第一(第28号) | 毒物 | 「前各号に掲げる物のほか、前各号に掲げる物を含有する製剤その他の毒性を有する物であつて政令で定めるもの」[1] |
| 別表第二(第94号) | 劇物 | 「…その他の劇性を有する物であつて政令で定めるもの」[2] |
| 別表第三(第10号) | 特定毒物 | 「…その他の著しい毒性を有する毒物であつて政令で定めるもの」[3] |
指定令の構成
- 第1条:毒物を指定。 現行条文には「九の四」のような枝番号を含めて106の号があります。例として、第1号は「アジ化ナトリウム及びこれを含有する製剤。ただし、アジ化ナトリウム〇・一%以下を含有するものを除く。」です[4]。
- 第2条:劇物を指定。 枝番号を含めて340の号があります。例として、第1号は「無機亜鉛塩類」です。ただし、炭酸亜鉛、雷酸亜鉛、焼結した硫化亜鉛(Ⅱ)などは除かれています[5]。
- 第3条:特定毒物を指定。 10の号があります。例:第1号「オクタメチルピロホスホルアミドを含有する製剤」[6]、第8号「モノフルオール酢酸塩類及びこれを含有する製剤」[7]。
実務上のポイント
- 濃度による除外(裾切り): 多くの号に「ただし、○%以下を含有するものを除く」という除外規定があります。例えばトリシクラゾールは、8%以下を含有する製剤が劇物から除かれます[8]。このため、製剤が該当するかどうかは、法の別表と指定令の両方で、物質名と含有濃度を突き合わせて判断します。
- 枝番号による追加: 新しい指定は「九十九の九」のような枝番号で追加されています[8]。そのため、号の数は物質数とは一致しません。
特定の物質や製剤が毒物・劇物に当たるかどうか、また除外濃度がいくらかを、別表と指定令の両方で確認することもできます。
毒物と劇物の違いは?
違いは毒性の強さです。毒物は急性毒性がより強い物質で、法の別表第一と指定令第1条に載っています。劇物はそれより毒性が弱い物質で、別表第二と指定令第2条に載っています。毒物の中でも特に危険なものは「特定毒物」として、さらに厳しく規制されます。法律上は、どちらに当たるかを毒性値で判断するのではなく、別表や指定令に名前が載っているかどうかで決まります。
Approach: 毒物及び劇物取締法の別表と毒物及び劇物指定令を確認しました。本則の条文(第2条、第12条)はe-Govの法令本文、区分の目安は厚生労働省の「毒物劇物の判定基準」(令和7年3月改定)で確認しています。
法律上の定義(取締法第2条)
- 毒物: 「別表第一に掲げる物であつて、医薬品及び医薬部外品以外のもの」(第1項)。
- 劇物: 「別表第二に掲げる物であつて、医薬品及び医薬部外品以外のもの」(第2項)。
- 特定毒物: 「毒物であつて、別表第三に掲げるもの」(第3項)。特定毒物は毒物の一部です。
- 別表に直接名前がない物質は、最後の号(別表第一は第28号、第二は第94号、第三は第10号)を通じて指定令で指定されます。毒物は指定令第1条、劇物は第2条、特定毒物は第3条です[1][2][3]。
区分の目安(厚生労働省「毒物劇物の判定基準」)
この基準は、指定令を作ったり改めたりするときに、薬事審議会が参考にするためのものです。ばく露経路(経口、経皮、吸入)のうち一つでも毒物の基準に当たれば毒物になります。どの経路でも毒物に当たらず、一つでも劇物の基準に当たれば劇物になります。
| ばく露経路 | 毒物 | 劇物 |
|---|---|---|
| 経口 LD50 | 50 mg/kg以下 | 50 mg/kg超、300 mg/kg以下 |
| 経皮 LD50 | 200 mg/kg以下 | 200 mg/kg超、1,000 mg/kg以下 |
| 吸入(ガス)LC50 | 500 ppm(4hr)以下 | 500 ppm超、2,500 ppm(4hr)以下 |
| 吸入(蒸気)LC50 | 2.0 mg/L(4hr)以下 | 2.0 mg/L超、10 mg/L(4hr)以下 |
| 吸入(ダスト・ミスト)LC50 | 0.5 mg/L(4hr)以下 | 0.5 mg/L超、1.0 mg/L(4hr)以下 |
- 劇物だけに使われる基準: 皮膚の腐食性や、眼などの粘膜に重い損傷を起こす物質は劇物と判定されます。
- 特定毒物: 毒物の中でも毒性が極めて強いものが対象です。広く一般に使われる、または使われると考えられるなどの理由で、危害が起きるおそれが特に大きいものが指定されます。
- 製剤の除外(裾切り)の扱い: 劇物の製剤は、一定の濃度以下なら普通物として除外されることがあります。刺激性で劇物になった物質の製剤なら、原則として3%未満が除外の目安です(pH2以下の酸やpH11.5以上の塩基などは1%未満)。一方、毒物の製剤は原則として除外されません。指定令で劇物には「○%以下を除く」という規定が多く、毒物には少ないのはこのためです。
実務上の違いの例:容器と被包の表示(取締法第12条第1項)
毒物劇物営業者と特定毒物研究者は、容器と被包に「医薬用外」の文字を表示しなければなりません。あわせて、次の表示が必要です。
- 毒物: 赤地に白色で「毒物」
- 劇物: 白地に赤色で「劇物」
特定の物質が毒物、劇物、特定毒物のどれに当たるか、また除外濃度がいくらかを、別表と指定令で調べることもできます。
薄めた製剤も劇物になりますか?
はい。薄めた製剤でも、指定令でその製剤が劇物に指定されていて、除外濃度(裾切り値)を超えていれば劇物です。 逆に、規定された濃度以下まで薄めれば劇物から外れます。ただし、成分ごとに条件が違います。除外濃度がなく、少しでも含めば劇物になるもの。製剤がそもそも指定されておらず、原体(純品)だけが劇物のもの。この3つの型を条文で確認する必要があります。
Approach: 毒物及び劇物取締法の別表第二と、毒物及び劇物指定令第2条(劇物)の現行条文を確認しました。
仕組み
- 法の別表第二に載っているのは、原則として原体(例:第89号「硫酸」)です[9]。
- 製剤が劇物になるかどうかは、第94号の「前各号に掲げる物を含有する製剤その他の劇性を有する物であつて政令で定めるもの」を通じて、指定令が個別に決めています[2]。
指定令第2条の3つの型
① 除外濃度があるもの:その濃度以下なら劇物ではない
| 号 | 対象 | 劇物から除かれる濃度 |
|---|---|---|
| 第8号 | アンモニアを含有する製剤 | 10%以下[10] |
| 第16号 | 塩化水素を含有する製剤 | 10%以下[11] |
| 第16号の2 | 塩化水素と硫酸とを含有する製剤 | 合わせて10%以下[12] |
| 第19号 | 過酸化水素を含有する製剤 | 6%以下[13] |
| 第68号 | 水酸化ナトリウムを含有する製剤 | 5%以下[14] |
| 第104号 | 硫酸を含有する製剤 | 10%以下[15] |
例えば硫酸を水で薄めた場合、10%を超えていれば劇物、10%以下なら劇物ではありません。
除外に濃度以外の条件が付くもの: 第105号の硫酸タリウム製剤は、0.3%以下であることに加えて、「黒色に着色され、かつ、トウガラシエキスを用いて著しくからく着味されているもの」に限って除外されます[16]。
② 除外濃度がないもの:どれだけ薄めても劇物 「及びこれを含有する製剤」とだけ書かれ、ただし書きがない号です。例:第43号の2「二・四―ジニトロトルエン及びこれを含有する製剤」[17]、第106号「硫酸パラジメチルアミノフエニルジアゾニウム、その塩類及びこれらのいずれかを含有する製剤」[18]。
③ 製剤が指定されていないもの:原体だけが劇物 第76号の2は「トルエン」[19]、第22号の4は「キシレン」[20]とだけ書かれ、「含有する製剤」という文言がありません。この書き方の場合、指定されているのは物質そのものだけです。
判断するときの注意
- 成分ごとに見る: 一つの成分が除外濃度以下でも、ほかの成分が劇物の要件に当たれば、その製剤は劇物です。塩化水素と硫酸の混合物のように、合算で判断する号もあります(第16号の2)。
- ただし書きの中身を読む: 「除く」には、濃度による除外のほか、特定の化合物を外すものもあります。例えば有機シアン化合物(第32号)は、アセトニトリル40%以下を含有する製剤など、物質ごとに除外条件が細かく並んでいます[21]。
- 毒物の製剤: 前回お伝えしたとおり、毒物の製剤は原則として除外されません。薄めても毒物のままになるのが通常です。
製剤の組成(成分名と濃度)を教えていただければ、指定令の該当する号と除外条件を突き合わせて、劇物に当たるかどうかを確認できます。
最近の改正は?
直近の改正は令和7年政令第358号です(令和7年10月29日公布、11月1日施行)。 この改正で、フエナザキンとその製剤が新たに劇物に指定されました(19.4%以下を含有するものは除外)。また、塩素酸ナトリウムを含む特定の製剤が劇物から外れました。厚生労働省の公式ページで確認した範囲では、2026年に公布された改正や、新しい改正案は見つかりませんでした。
Approach: データセットにある毒物及び劇物指定令は現行条文だけで、改正の経緯は含まれていません。そこで、厚生労働省の改正通知(法令等データベース)、同省の毒物劇物ページ、e-Govパブリック・コメントを確認し、改正内容が現行条文に反映されているかを照合しました。
令和7年改正(令和7年政令第358号)
- 公布と施行: 令和7年10月29日に公布され、令和7年11月1日に施行されました。ただし、劇物からの除外は公布日から施行されています。
- 新たに劇物に指定: 「4―[2―(4―ターシヤリ―ブチルフエニル)エトキシ]キナゾリン(別名フエナザキン)及びこれを含有する製剤」。19.4%以下を含有するものは除かれます。現行条文では第2条第85号の7です[22]。
- 劇物から除外: 塩素酸塩類(第2条第18号)のただし書きに次の製剤が加わり、劇物から外れました。「塩素酸ナトリウム四七・五%以上五二・五%以下を含有する製剤(粉粒状に加工をしたものを除く。)(炭酸水素ナトリウム二七%以上三七%以下を含有するものに限る。)」[23]
- 経過措置: 新しく指定された物を扱う製造業者、輸入業者、販売業者は、令和8年1月31日まで登録などの規定の適用が猶予されました。すでにある在庫の表示についても、同じ日まで猶予されています。この期限はすでに過ぎています。
- 同時に改正された省令: 毒物及び劇物取締法施行規則も改正されました(令和7年厚生労働省令第107号)。農業用品目販売業者が扱える品目にフエナザキンが加わったほか、譲受人の押印・署名の要件が明記されました。
- この改正案は、令和7年7月25日から8月24日まで意見募集にかけられていました。
出典:厚生労働省 毒物及び劇物指定令等の一部改正について(令和7年10月29日 医薬発1029第1号)、厚生労働省 毒物劇物の定義、検索、有害性情報、e-Govパブリック・コメント(案件番号495250100)
一つ前の改正(令和6年政令第196号)
- 公布と施行: 令和6年5月29日に公布され、令和6年6月1日に施行されました。
- 新たに劇物に指定: フルペンチオフエノツクスとその製剤です。除外濃度はありません。現行条文では第2条第28号の15です[24]。
- 劇物から除外:
- 経過措置: 令和6年8月31日まで、禁止規定、毒物劇物取扱責任者、登録の変更、表示に関する規定の適用が猶予されました。
出典:厚生労働省 毒物及び劇物指定令等の一部改正について(令和6年5月29日 医薬発0529第1号)
実務上のポイント
ここ数年の改正は、毎年1回のペースで、少数の物質を追加したり除外したりする形が続いています。対象は農薬の有効成分が中心です。新しく指定された物質については、経過措置の期限までに、登録、毒物劇物取扱責任者の設置、容器と被包の表示を整える必要があります。
令和5年以前の改正の内容や、特定の製品が今回の改正の影響を受けるかどうかも、続けてお調べできます。