GLPの意味とは
GLPとは何ですか?
規制の文脈では、GLPは**Good Laboratory Practice(優良試験所規範)**の略です。OECD GLP原則では「非臨床の健康・環境安全性試験を計画、実施、監視、記録、保管、報告する際の組織的プロセスと条件に関する品質システム」と定義されています(OECD GLP原則 2.1)。目的は試験データの質と信頼性を確保し、各国が互いの試験データを受け入れられるようにすることです。
Approach: OECD「Good Laboratory Practice: OECD Principles and Guidance for Compliance Monitoring」(2005年)の本文と、ポーランド・スイスのGLP適合施設登録簿を確認しました。EUの指令2004/10/ECの本文はEUR-Lexで開けなかったため、同指令の条文はこの回答の根拠にしていません。
対象範囲(OECD GLP原則 Section I)
- 対象となる試験品目は、医薬品、農薬、化粧品、動物用医薬品、食品添加物、飼料添加物、工業化学品です。
- 実験室内だけでなく、温室や圃場(フィールド)での試験も含まれます。
- 各国の法令で特に除外されていない限り、これらの製品の登録・許可や工業化学品の規制のために求められる非臨床安全性試験すべてに適用されます。
- 「非臨床」とあるとおり、ヒトを対象とする臨床試験は対象外です。
主な要素(Section II)
- 試験施設の運営管理者: 十分な資格を持つ人員、設備、標準操作手順書(SOP)、信頼性保証(QA)プログラムを確保します。また、試験ごとに試験責任者(Study Director)を指名します。
- 試験責任者: 試験全体と最終報告書に責任を負う、ただ一人の管理者です。試験計画書を承認し、最終報告書に署名・日付を記入してデータの妥当性に責任を持ちます。
- QA担当者: 試験の実施からは独立していなければなりません。試験・施設・プロセスの査察を行い、最終報告書が生データを正確に反映しているかを確認します。
- そのほか、施設、機器の校正、被験物質の特性評価、生データとアーカイブ(記録の保管)についても要件があります。
規制上の位置づけ
- OECD GLP原則は、1981年のOECD理事会決定「化学品評価におけるデータの相互受入れ(MAD)」[C(81)30(Final)]の附属書として採択されました。
- 1997年11月26日に改訂版が採択されています[C(97)186/Final]。
- MAD決定では、OECDテストガイドラインとGLP原則に従って作成されたデータは、他の加盟国でも評価のために受け入れられるもの("shall be accepted")とされています。これにより重複試験を避けることができます。
- 原則の基礎になったのは、米国FDAが1976年に公表した非臨床試験のGLP規則です。
実務上の運用例 各国の当局はGLP適合施設を査察し、登録簿を公表しています。
- ポーランドの化学物質局(BSSC)は、OECD GLP原則、指令2004/10/EC、ポーランド化学物質法に基づいて認証施設の登録簿を管理しています[1]。
- スイスでは、GLP条例(OGLP SR 813.112.1)に基づき、査察時にGLP原則への適合が確認された施設が登録されています[2]。
なお、「GLP-1」受容体作動薬などの医薬品のことをお尋ねでしたら、そちらについてお調べします。
出典:
医薬品と農薬では基準が違いますか?
はい、違います。日本では、医薬品と農薬のGLPはそれぞれ別の法律に基づく別の省令で定められています。根拠法、所管省庁、対象となる試験の範囲、試験系の定義、記録保存の規定に違いがあります。一方、運営管理者、試験責任者、信頼性保証部門、標準操作手順書、最終報告書、資料保管という基本の構成は両方に共通しています。
Approach: 農薬取締法・同法施行規則、農林水産省の農薬GLP省令(農薬登録関係通知に収載)、FAMICの農薬GLP適合確認施設一覧、医薬品医療機器等法施行規則を確認しました。医薬品GLP省令の本文は手元のデータになかったため、厚生労働省の法令等データベースで全文を読みました。
1. 根拠法令と所管
| 医薬品 | 農薬 | |
|---|---|---|
| 省令 | 「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第21号) | 「特定試験成績及びその信頼性の確保のための基準に関する省令」(平成30年農林水産省令第76号、最終改正:令和6年4月1日)[3] |
| 根拠法 | 医薬品医療機器等法 | 農薬取締法 |
| 法令上の位置づけ | 施行規則第43条により、承認申請資料はこの省令などに定めるもののほか、所定の基準に従って「収集され、かつ、作成されたものでなければならない」とされています[4] | 法第3条第2項により、「特定試験成績」は信頼性確保の基準に従って行う試験(基準適合試験)によるもの「でなければならない」とされています[5]。変更登録と再評価にも同じ要件があります[6][7] |
| 信頼性の調査 | (今回のデータでは確認できず) | 審査業務の一部として、FAMICが「試験成績の信頼性に関する調査」を行います[8] |
なお、医療機器と再生医療等製品にも、それぞれ専用の非臨床試験の基準省令があります(平成17年厚生労働省令第37号、平成26年厚生労働省令第88号)[9][10]。
2. 対象となる試験の範囲(いちばん大きな違い)
- 医薬品: 第1条で、対象は急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、遺伝毒性、催奇形性その他の「毒性に関するもの」の資料を作るための試験に限られています。
- 農薬: 第2条が「特定試験成績」として、幅広い試験を列挙しています[3][11]。
- 農薬原体の組成分析(ダイオキシン類の分析を除く)
- 物理的化学的性状(色調・形状・臭気を除く)
- 動物体内での代謝と毒性(解毒方法・救命処置方法の検索を除く)
- 作物残留(一部の作物残留試験と後作物残留試験を除く)、畜産物への残留
- 土壌中動態・土壌吸着性・水中動態
- 生活環境動植物と蜜蜂への影響(蜂群への影響評価試験を除く)
- 分析法
- 薬効・薬害の試験成績は特定試験成績に含まれません。微生物農薬の通知では、これらは局長通知の規定を準用して実施し、その他の試験成績は農薬GLP省令第5条から第19条に「準じて実施することが望ましい」とされています[12]。
3. 定義の違い
- 試験系:
- 医薬品:動物、植物、微生物またはその構成部分です(第2条第3項)。
- 農薬:物理的化学的試験系(測定装置の系)と生物的試験系の両方が含まれ、生物的試験系には土壌も含まれます[11]。
- 被験物質:
- 医薬品:医薬品、または化学的物質・生物学的物質もしくはその製剤です。
- 農薬:農薬、農薬の有効成分、またはこれらの関連物質です[11]。
4. 組織要件の違い
- 信頼性保証(QA):
- 管理者の指名: 農薬では、運営管理者が資料保管責任者、被験物質等管理責任者、機器管理責任者まで指名します。また、試験場所管理責任者と主任試験員の制度が本則に組み込まれています(第5条、第6条)[15]。
- 複数場所での試験: 医薬品では第8章(第19条)が独立して定めており、試験場所管理責任者と「試験主任者」について規定しています。
- 電子情報処理組織: 農薬では、電子情報処理組織(コンピュータシステム)が適切に作動することの確認が明記されています。
- 試験委託者: 医薬品では、試験委託者の責務が第4条に規定されています。委託先への事前通知と、省令に従って実施されたことの確認を文書で記録・保存することが求められます。
5. 記録の保存
- 農薬(第19条): 試験完了日から10年間の保存が求められます。サンプル・標本は、10年間と評価が困難になるまでの期間のうち短い方です[16]。
- 医薬品GLP省令(第18条): 「適切に保存しなければならない」と定めるだけで、省令本文に年数はありません。別に施行規則第43条第3号が、根拠資料を承認・不承認の処分の日まで保存するよう求めています[4]。
6. 経過措置と最近の改正
- 農薬:
- 平成30年12月1日の施行前に開始した試験には、第5条から第19条の基準を適用しないことができます。
- 令和6年改正後の第2条は、令和6年10月1日以後の登録申請に適用されます[17]。
- 医薬品: 令和7年厚生労働省令第117号による改正が、令和8年5月1日から施行されています。
7. 適合施設の確認
- 農薬: FAMICが「農薬GLP適合確認施設一覧」を公表しています。2026年5月29日版に44施設が掲載され、施設ごとに試験分野の番号が付いています。
- 医薬品: 医薬品側の適合確認の一覧は、今回確認したデータには見つかりませんでした。
参考:単一の制度で両方を扱う例 スイスやポーランドでは、一つのGLP登録簿で医薬品と農薬の試験施設を両方扱っています。
出典:
GMPやGCPとは何が違いますか?
GLP、GCP、GMPは、医薬品開発の別々の段階を対象にしています。 GLPは承認申請に使う非臨床の安全性試験データの信頼性、GCPはヒトを対象とする治験の実施と管理、GMPは製造所での製造管理と品質管理です。日本では3つとも医薬品医療機器等法に基づく別々の厚生労働省令で定められています。法律上の効き方も違い、GLPとGCPは「申請資料をどう作るか」の基準、GMPは「承認の要件」であり、承認後も定期的に適合性の調査を受けます。
Approach: 医薬品医療機器等法、同法施行令、同法施行規則の条文を確認しました。比較のため、EUのGMPガイドライン(EudraLex Volume 4)と臨床試験ガイダンス(EudraLex Volume 10、ICH E6を含む)も参照しています。GCP省令とGMP省令は、施行規則に記載された名称と番号までを確認し、省令本文は今回開いていません。
1. 日本での比較(医薬品)
| GLP | GCP | GMP | |
|---|---|---|---|
| 省令 | 医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第21号) | 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第28号)[4] | 医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第179号)[22] |
| 対象 | 非臨床の安全性(毒性)試験 | 治験 | 製造所での製造管理・品質管理 |
| 法律上の根拠 | 法第14条第3項後段、施行規則第43条 | 法第14条第3項後段、施行規則第43条、法第80条の2 | 法第14条第2項第4号、第6項 |
| 守るべき人 | 試験施設 | 治験依頼者、治験実施医療機関、自ら治験を実施する者 | 製造所(製造業者、医薬品製造管理者)と承認取得者 |
| 守らなかった場合の影響 | 申請資料として基準を満たさない | 申請資料として基準を満たさない。加えて治験への指示(中止など) | 承認を与えない理由になる |
2. GLPとGCP:申請資料の信頼性の基準
- 法第14条第3項後段は、厚生労働省令で定める医薬品について、申請資料は省令で定める基準に従って「収集され、かつ、作成されたものでなければならない」としています[23]。
- 施行規則第43条は、その基準としてGLP省令、GCP省令、製造販売後調査・試験の基準省令(GPSP、平成16年厚生労働省令第171号)を並べて挙げています[4]。GLPとGCPは同じ「データの信頼性」の枠組みに入り、違いは対象が非臨床かヒトかという点です。
- 資料が基準に適合しているかは、審査の前に「書面による調査又は実地の調査」で確認されます(法第14条第5項)[23]。
3. GCPにだけある規定:治験そのものの規制
- 「治験」は、承認申請で提出する資料のうち「臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験の実施」と定義されています(法第2条第18項)[24]。
- 法第80条の2は、関係者ごとに基準の遵守を求めています[25]。
- 治験依頼者は、基準に従って治験を依頼「しなければならない」(第1項)
- 依頼を受けた者と自ら治験を実施する者は、基準に従って治験を「しなければならない」(第4項)
- 治験依頼者は、基準に従って治験を管理「しなければならない」(第5項)
- GLPやGMPにない手続もあります[25]。
- 治験計画の事前届出(第2項)
- その薬物等について初めて届け出た場合は、届出日から30日を経過するまで治験を開始できない(第3項)
- 副作用などの大臣への報告(第6項)
- 立入検査(第7項)
- 治験の中止・変更などの指示(第9項)
- 守秘義務(第10項)
4. GMP:製品と製造所に対する、承認の前後を通じた要件
- 政令で定める品目については、製造所の製造管理・品質管理の方法が省令の基準に適合していると認められないとき、承認は与えられません(法第14条第2項第4号)[23]。
- 適合性の調査は承認申請時だけで終わりません。承認取得後も「三年を下らない政令で定める期間を経過するごとに」調査を受け「なければならない」とされています(同条第6項)[23]。GLPとGCPは申請資料が出来上がった時点の信頼性を問うものですが、GMPは製品が市場にある間ずっと求められます。
- 製造所の医薬品製造管理者は、GMP省令で定められた業務を行います(施行規則第89条)[22]。
- 輸出用の医薬品でも、外国政府や国際機関から基準適合の証明を求められた場合には、GMPの基準が適用されます(施行令第70条の2)[26]。
5. 国際的な定義(EU・ICHでの確認)
-
GMP: EU GMPガイドライン第1章1.8は、GMPを「品質マネジメントのうち、製品が意図した用途に適した品質基準に従って、販売承認、臨床試験承認、製品規格の求めるとおりに一貫して製造・管理されることを保証する部分」と定義しています。対象は製造と品質管理の両方で、バリデーション、逸脱調査、回収体制なども含まれます[27]。原薬については、ICH Q7がGMPガイドラインのPart IIになっています[28]。
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GCP: ICH E6(R2)の用語集1.24は、GCPを臨床試験の計画、実施、モニタリング、監査、記録、解析、報告の基準と定義しています。その目的は2つあります[29]。
- データと報告された結果が信頼でき、正確であることの保証
- 被験者の権利、完全性(integrity)、秘密の保護
GLPにない「被験者保護」が、GCPのいちばん大きな特徴です。なお、EUのCTR Q&A(2026年7月版)はすでにICH E6(R3)の条項を参照しています[30]。
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3つの関係: EUのGCP査察官の資格に関する勧告では、GLPとGMPのうちGCPと密接に関係する分野として、試験室設備、コンピュータ化されたデータの記録と解析、治験薬の要件を挙げ、査察官同士の情報交換を勧めています[31]。また、EUのGMP指令2003/94/ECは、ヒト用医薬品だけでなく治験薬にもGMPを適用しています[32]。治験の段階では、GCPとGMPが同時に適用されることになります。
まとめ
- GLP:動物などを使う非臨床の安全性試験のデータの質
- GCP:ヒトを対象とする治験のデータの質と被験者保護
- GMP:製品を毎回同じ品質で製造すること
GLPとGCPは申請資料の信頼性の基準、GMPは製造所と製品に対する承認前後を通じた要件です。